うれいなし考

ゴタンダクニオのうれいなし考です

マジで死なない計画のこと

2018年6月18日月曜日 あさ7時58分ごろ、わたしは出勤にむけてお化粧をした手を洗い終えたところだった。

床がぐらついてシンクのへりを掴んだ。
消す前だったテレビで地震速報が流れた。

スマホを掴み、眼鏡をかけ、震源地の確認など事態の把握につとめたあと、バスの時間が迫っていたのと、ひとり暮らしの部屋にいるのが不安で、予定通り鞄とお弁当を持って家を出た。

いま思えば軽いパニックだったかもしれないが、最近は1日充電が持たなくなったスマホのために充電器を掴み、部屋の現金を全て財布に移してから家を出たのだった。
本当なら出口を確保したあとに余震に備えて様子を見るべきだったのだろうと思う。

バス待ちの人がみんな不安そうにスマホを見ていた。

ツイッターのタイムラインで、同じ京都の友人たちが騒いでいるのを尻目に詳しい情報を探る。現場の情報では、ツイッターが一番早いから。スタートダッシュの情報ならデマの疑いも低い。災害情報をフォローしていなかったので手間取った。

LINEもまた飛び交った。ツイッターもLINEも、発言のない友人を把握しておく。

大阪に住んでいる親友と震源地にほど近い場所に住んでいる友人一家が心配で、今送っても迷惑かもしれないと思いつつ、メッセージを送った。親友からはすぐに返事が来た。友人一家は一時間以内に家族無事との連絡をくれたが、想像を絶する恐ろしさだったことを知ったのはあとになってからだった。

バスを降りると出勤前らしい女の子が泣きながら電話していた。

 

京都に来て10年、桓武天皇が都に選んだくらいの場所だから、と高をくくって、より現実に即した準備を怠ってきたのだった。

地震当日は余震がないのにびびりながら仕事をこなし、帰宅途中の業務スーパーとホームセンターで水・缶詰・懐中電灯・電池・小型バッテリーなどを買い、いったん荷物を降ろしてドラッグストアに行くと、そういう目線で見てみれば緊急持ち出し袋に必要そうないろいろが目に入ってそれも買った。アイマスク・耳栓・化粧落とし・水のいらない衛生用品。

部屋にあるいちばん大きなリュックを持ち出し用、旅行用キャリーを備蓄用として荷造りをした。緊急持ち出し袋は避難所に行けるまでの装備と1、2泊程度しのげる準備でよいこと、備蓄用の缶詰などは1年程度の日持ちの安いもので十分で、その代わり定期的に賞味期限をチェックして防災意識を保つこと、などのハウツーなども初めて知った。

備えの足りなさを他人事のように驚きながら準備や部屋の片づけなどで手を動かしているうちはよかった。それが初日。

東日本大震災熊本地震も本震が2日後に来た、ということを思い出させるツイートを見ながら、今日は「備え」ということを考えながら過ごした。

余震・あるいはもっと大きな本震に怯えながら「備え」ている今は、つまるところ「非日常」だ。毎日お風呂に水を貯めるのを習慣とすることは、環境や水道代のことを考えるにつけ現実的とは言い難い。かといって、今この瞬間に大地震があろうとは思ってもいなかったたとえば二日前のような「日常」を続けていたら、遠くない未来に大震災が起こったときに後悔することになるだろう。

日常・非日常という観点から生活を考えてみる。
それでもわれわれは余震に怯えながら非日常を続けることはできないし、自分らしい生活を欠いた状態から復旧したいと誰もが思っている。現に、制作途中であったり執筆途中であったりする作品を脇に置いてしまっているのだ。

実際に家にいられなくなった友人たちの苦労や、一時的に実家に寄るなどして万一に備えている友人たちの不安げなツイート、わざわざ震源地に向かって出勤しなければならない友人たちの憤懣、防災意識の欠いた会社に見切りをつけるツイート…(弊社も緊急体制が穴だらけだったので自分の身は自分で守らねばならぬと決意を固くした今朝だった)こんな精神状況には限界がある。1週間耐えてそのあと気を抜けるという種類の話でもないのだ。こればかりは、実際に被災してみないとわからないし、家の物的被害もなく会社からも最悪歩いて帰れるところに住んでいる自分でさえ、あの揺れを経験した以上はびびってはならないことにはならない。昨日の朝電話口で泣いていた女の子を思い出す。震源地に近いところに大切な人がいたのかもしれない。考えるだけでつらい。
この状況で何ができるだろうか、と考えながら過ごした。というよりも、最悪のことばかり考えていられなくなって現実逃避したというほうが合っているかもしれない。

こんな状態だけど、なにも手につかない今だからこそ、本でも読むか、と思ったのがきっかけだった。

しかし、はたと思い直した。最近時間が取れていないけれど、そもそも読書はライフワークでありたいのだった。

生活とは?明日大震災が起きても後悔しない毎日の作り方とは?
もしくは、余震に怯えながらもメンタルをやられない(=死なない)ためには?

そこであるウェブサイトの存在を思い出したのだった。

「冷凍都市でも死なない」

www.shinanai.com

この企画には以前にも救われたことがある。日々を潤すさまざまなメソッドはもちろんのこと、そのコンセプトに感銘を受けた。これの防災バージョンがほしい。マジで死なないライフハックだ。
そう思ってしまったら早かった。自分を救ってくれるような、生き延びたのちにも災害の備忘録となるような、なにより何も手につかない今なぐさみになることをしたい。今が非日常なら非日常で楽しんでしまいたい。

とりあえず自分のためのささやかな取り組みにしたいので、さんざん迷ったが「~死なない」関連のタグはつけずに始めることにした。
それがゴタンダクニオの「うれいなし考」です。